大阪地方裁判所 昭和54年(行ク)3号 決定 1979年1月26日
申立人
ニコニコタクシー株式会社
右代表者
河野厳
右訴訟代理人
入江菊之助
外二名
相手方
大阪陸運局長
小林哲一
右指定代理人
稲垣喬
外三名
主文
相手方が申立人に対し、昭和五四年一月一九日付大陸第二〇〇〇五号でした一般乗用旅客自動車運送事業免許取消処分は、当庁昭和五四年(行ウ)第八号本案事件の第一審判決言渡しまでその執行を停止する。
理由
一本件申立の趣旨と理由
別紙のとおり。
二当裁判所の判断
(一) 回復困難な損害を避けるための緊急の必要について
本件疎明資料によると、申立人は昭和二六年一二月二〇日付で一般乗用旅客自動車運送事業の免許を受けたが、昭和五四年一月一九日付で同月二二日を効力発生日とする本件取消処分を受けたこと、申立人は、本件取消処分の日までタクシー業とアパート賃貸業を営んでいたが、申立人の営業のうちアパート賃貸業の占める割合は収入金額、経費、従業員、等の点で僅かのものであつたこと、申立人は、本件取消処分当時には、事業用自動車六三台、自動車乗務員一〇五名、その他従業員一八名を用い、年間約四億円の収入を得、約三億円の人件費(うち約六、〇〇〇万円は歩合給)を支払い、約一億四、〇〇〇万円の資産を有していたこと、以上のことが一応認められる。
右の事実によると、本件取消処分の執行が停止されなければ、申立人はタクシー業を営むことができず、その収入の殆んどが断わられ、他方そのための資産と従業員とは無用に帰することは明らかである。その結果、申立人は、資産状態を悪化させて倒産し、回復困難な損害を受けるであろうことは容易に予測できるところである。そのうえ、本件取消処分の効力発生期日が既に経過しているから、本件取消処分の執行を停止すべき緊急の必要があるということができる。
(二) 本案について理由がないとみえるかについて
本件疎明資料によると、本件が、本案について理由がないとみえるときには該当しないことが一応認められる。
(三) 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれについて
本件疎明資料によると、申立人には本件取消処分前に免許区域外営業等の道路運送法、道路運送事業等運輸規則違反の行為があり、相手方から、これまで文書警告等を受けたこともあつたことが一応認められる。しかし、本件疎明資料によると、申立人はその後そのような法令違反がないように従業員に対する監督を強化したことが一応認められる。そのうえ申立人に今後そのような違反行為があれば、申立人は、刑罰等を受ける可能性があるし、また本件の本案訴訟において本件取消処分が裁量権濫用でないとの判断資料とされて申立人が不利益を受ける可能性があるのである。
これらを考慮すると、申立人にこれまで右のような法令違反があり、警告を受けたことがあつたことから、直ちに本件執行停止をすることが公共の福祉に重大といえるような影響を及ぼすおそれがあるとすることはできないし、ほかに、本件記録を精査しても、このことを認めることができる疎明資料はない。
(四) むすび
以上の次第で、原告の本件申立ては、執行停止期間の点を除いて理由がある。
ところで、当裁判所は、本案の第一審判決の時点で、その時点の資料に基づき執行停止の各要件、特に本案について理由ありとみえるかについての判断を加え、その時点以降の執行停止の許否について決定することにし、現段階では、さし当り本案の第一審判決言渡しまでの間について、本件取消処分の執行を停止することにする。
(古崎慶長 井関正裕 小佐田潔)
執行停止決定申請書<省略>